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直近M&A事例①(株式譲渡)~共に成長を目指す熱い想いに共感


2021年6月14日 M&A

本年度成約した電気工事業の直近M&A事例(株式譲渡)について、LBPFの玉積がご紹介します。

どのような流れでM&Aのプロセスが進むのか、またどのような論点が発生するのか等、皆様のご参考になれば幸いです。

なお、本事例における数値情報やその他詳細については仮定を置いておりますことをご了承下さい。

【その他事例はこちら】

『過去M&Aにより譲渡された会社の今~外部環境の激変を乗り越えプロ経営者のもとで再成長を目指す』を読む→

1. 本件の概要と背景

売手企業 買手企業
  会社名   A社   B社
  エリア   関東地域   西日本地域
  業種   電気工事業   専門商社
  売上高   1億円~5億円   50億円~100億円
  検討の背景   更なる成長、後継者不在   電気工事分野の強化

A社は、確かな技術力と各種工事におけるよろず屋的な立ち位置から、数十年に亘って大手企業を主要顧客とし事業を行われている電気工事業者様です。

会社としての安定性は非常に高い一方、従業員の高齢化や技術承継の問題から、更なる成長を展望した際、A社単独での成長には限界があること、およびオーナー親族内での事業承継が難しいということから、弊社にご相談を頂きました。

 

2. オーナーの要望と譲受候補先企業の声

譲受候補先企業の選定に際し、A社オーナーの要望として主に下記の4点が示されました。

  1. 会社の更なる成長が期待できる相手への承継
  2. 従業員の安定雇用
  3. A社オーナー一族の引退
  4. 一定の売却価格目線

上記を踏まえて、譲受候補先へアプローチを行ったところ、cについて「オーナーについては続投を頂き、今後もA社の成長に寄与して欲しい」という反応が多数寄せられました。

 

3. 心境の変化と新たな課題

譲受候補先の多くがA社オーナーの継続を望まれていることを踏まえ、弊社とA社オーナーで再度今後の関与についての協議を行ったところ、「自身が続投しても良いと思えるようなシナジーが見込まれる会社であれば検討可能」というご判断に。しかしながら、ここで、A社オーナーの「引退」と譲受候補先企業の「続投」という要望のアンマッチを解消するための課題として、「シナジーについて双方が非常に高いレベルで納得できるかどうか」という点が明確となりました。

 

4. シナジーは難しい?

「シナジー」と一言で言うものの、その実は簡単なものではありません。当事者双方の経営理念や将来的な事業戦略、考え方のポイントが違う中で、共通言語として語られるものではないからです。

複数の候補先との面談を行う場合においても、期待するシナジーが共有化できる相手はそう簡単に見つかるものではありません。中には、売手企業の技術力や強みを正確に評価できず、買手企業の下請業務(工事や下流工程の商流等)のみを要請されるなど、売手企業の考えとは程遠い提案を受けたという話を耳にすることも多々あります。

一般論として、シナジーを検討する際には先ず、自社の経営理念や強みや課題がどこにあるのかについて、事前に根拠をもって整理を行うことが重要です。それらをしっかり伝えることで買手企業の売手企業に対する正しい理解が生まれ、また買手企業の話もより具体性をもって聞くことが可能となり、両社のシナジーがよりイメージし易くなるからです。

売手企業と買手企業には情報格差があって当然です。自社のことは相手が勝手に分かってくれるであろう、というスタンスではなかなか良い候補先は見つかりません。

5. 共に歩むことへの決意

ある日、弊社にてB社が関東エリアでの事業拡大を計画しているという情報を入手しました。そこでA社オーナーのご了承を頂いたうえでアプローチを行い、会社の詳細説明を行ったところ、B社から「A社の事業領域や技術力は、正にB社が今後強化をしていきたい分野である」との反応がありました。

以降、両社を交えた面談を幾度も行う中で、「やはりA社オーナーと一緒に事業を成長させていきたい。その一役を担って欲しい」という要請がでてきました。

この要請を受け、改めてA社オーナーに確認を行ったところ、「B社の戦略は非常に魅力的。もし彼らと一緒になるのであれば、自身のノウハウを最大限活かすことができると考えられる」と、「引退」から「続投」へと舵を切る決意をされました。

 

6. 最大の山場

両社の意見も大枠で一致し、B社を相手方として正式検討を開始。しかし、詳細検討の中で、新たな問題点が浮上してきました。

A社は業歴も古く、少数精鋭で高い利益率を上げられている会社である一方、旧態依然とした労務管理体制等も残っており、近年の働き方改革等に照らし合わせてみると、必ずしも隙が無い状態ではありませんでした。

その状況についてはB社には事前に共有はしていたものの、実際に株式譲渡契約の詰めを行っていくにあたり、B社より管理体制やそれに付随するリスク、また本件取引全体に関するリスクについて、その回避の方向性や条件(=損害賠償条項や補償等)の希望が示されることとなりましたが、その内容は、A社オーナーの考えとは相当な開きがありました。

7. 交渉~未来の話

これまでの交渉の前提として、両社において「シナジー」について一定の方向性は共有されていました。つまり、残された論点は、損害賠償条項において両社の納得性が得られるか否かということとなります。

B社としては、一定のリスクは承知のうえ、それを踏まえてなお「シナジー」を対象会社とともに追い求めるか否かという判断に、またA社オーナーとしては、会社の更なる成長のため、提示された条件について完全ではないながらも合意し、B社とともに「シナジー」を追い求めるかという判断が迫られている状態です。

弊社は、B社様の希望条件は、補償金額及び期間において、一般的な条件と比較して厳しい内容であると判断し、B社様へ条件への再考を求めました。対するB社は、リスク回避の観点より中々首を縦に振る気配はありませんでしたが、交渉の過程において、A社と共に成長をしていきたいという意向が以前より強くなっていると判断をし、改めて両社オーナー同士でのご面談を調整(※)することとしました。

(※)今後の両社の成長戦略に関する議題を中心に据え、更に深堀をすることで、B社が現時点で認識をしている
「リスク」と将来的な成長に対する「期待感」のバランスを再確認し、ギャップを埋めることが主眼。

かなり白熱した面談を終え、最終的に出された結論は、「双方の条件について双方が譲歩する」という形。つまり、両社が更に成長していくためにはお互いの力が必要不可欠であるということが明確となり、未来に向かって共に歩んでいくことが最良の判断だという結論に至ったことから、その後の再条件提示にて両社が歩み寄ることで、無事株式譲渡契約書の締結へと至りました。

 

8. A社オーナー様のコメント

取引先が大きくなり会社が成長する中、取引先からの要望に私自身が対応していくことが困難になり、将来性に不安を感じ始めたことが、検討のきっかけでした。

その他、人材不足や労務管理、経理面などでも限界を感じ始めておりましたが、多忙な日々の中で相談する相手もなく、何も手を打つことができない状況の中、事業継承を検討することは、私にとって唯一の選択であったのです。

当初は同業の何社かの候補先と面談、協議を行いましたが、前進することが出来ませんでした。買収を計画している会社は規模の拡大・効率化を目指して、買収を計画しているので、拡大効率化が、当社の従業員にとって本当に幸せかどうかと考えると前には進めなかったのです。

新しい分野に進出するため、ノウハウを持つ別会社を買収検討している会社の方が未来を託せるのではと考え、B社と共に更なる成長を目指すことを決断致しました。

売却後、私は会社に残ることにしました。現在、B社のアドバイスのもと、労務管理・経理などで大きく改革中です。

その他の事例もぜひご覧ください。
過去M&Aにより譲渡された会社の今~外部環境の激変を乗り越えプロ経営者のもとで再成長を目指すを読む→

LBPFのM&Aサービスを見る→ 

 

LBPF玉積

玉積 範将

大手都市銀行にて約11年間に亘り、担当先企業の資金調達/事業成長支援(約5年)及び、自行の財務企画/予算・投資管理/コスト削減(約5年)、人事研修企画(約1年)に従事。
その後事業会社にて、グループ会社全体のバイサイドM&A戦略/実務に従事。また、運輸交通/不動産/専門商社を始めとした多様な事業分野において事業・部門戦略/再生・成長計画の策定に関与。
LBPF入社後は、下記事業領域を中心としたM&Aに加え、主に東海、関西及び中四国エリアのカバレッジを担当している。

<主な事業領域>
物流業界(貨物、旅客、MaaS関連(インフラ/IT等))
設備工事業界(電気工事、電気通信工事、管工事)

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