過去弊社のサポ―トで成約した案件に関し、譲渡された会社のその後の状況について、LBPFの吉沼がご紹介致します。
承継後の会社の状況に関しては、事業承継をご検討されている会社様及びオーナー様が気になるポイントの一つかと思いますので、本事例が皆様のご参考になれば幸いです。
なお、数値情報やその他詳細については一部仮定を置いておりますことをご了承下さい。
1. 売手企業の概要
対象会社は創業社長が昭和50年代の創業以来、奥様の二人三脚で、自動車・船舶・建設機械向けの製造装置部品の製造を行っていました。
創業社長は高校卒業後、同業での修行を経て、貸工場を借りて創業。堅調に事業を拡大されたものの、バブル景気時代の財テクの失敗や、取引先からの要請によるアメリカ進出の不調等、様々な困難を乗り越えられ、ここ数年は売上3億円弱、経常利益0.5億円水準を安定的に計上されていました。
しかしながら、創業社長夫妻にはお子さんがおらず、ご親族や管理職の社員の方は年齢が若く、マネジメントの経験ない為、創業社長が70歳を過ぎても後継者不在の状態でした。
その様な状況の中で、総務業務を行っていた奥様が体調を崩され、定期的な通院が必要となり、ご自身も体力、気力の衰えを感じられ、2017年にメインバンクである地元の地方銀行にM&Aによる事業承継を相談するに至りました。
地方銀行のM&A担当部署が熱心に買手探しを行い数社が関心を持たれたようですが、買手候補企業の事情や地理的な問題もありなかなか成約には至りませんでした。
2. 買手企業の概要
その後2018年初夏に地方銀行より、提携関係にある弊社にご相談を頂きました。直ぐに弊社の長年のクライアントであるA社にご提案したところ、関心を持って頂き交渉がスタート致しました。
A社も創業社長が一代で築き上げ、海外進出や同業のM&Aにも積極的に取り組み、国内外に10社以上の子会社を有し、グループ売上は50億円超を誇る企業グループです。
また、A社の社長は事業承継に際しても非常に合理的且つ大胆な考え方をお持ちで、社内に息子さんや大手企業出身の役員がいらっしゃいましたが、今後の更なる成長を企図し、大手商社においてスタートアップ事業や海外での事業経営部門で活躍された方を招聘され後継指名をされていました。
A社は社長がM&Aに積極的であり、またM&Aの経験も豊富な為、交渉は非常にスムーズに進みました。大手商社から招聘された前述の役員の方からは対象会社の内容について厳しい質問も頂きましたが、しっかりとしたデューデリジェンスを行っていただき、最終的には役員の方にも納得頂き、売り手側の条件を全て受け入れて頂く形で成約に至りました。
尚、安定した業績以上に買手企業が評価したのは、同業界では一般的に中小企業は取引先から提供された図面に基づき製造を行いますが、対象会社は自社に設計部門を有し、人材育成を行っていた点でした。
A社は過去のM&Aの経験から、業績は外部環境等により変動する可能性があることは十分認識しており、社内における優秀な人材の有無をM&Aを行う上での最優先評価事項とされていたことが成約に至った大きなポイントでした。
3. 売り手企業のM&A後の状況
2019年の年初に案件は無事クローズし、創業社長と奥様は役員を退任されました。「創業社長はM&A後は意識的に対象会社と距離を置かれた様だ」との話をA社の財務部長からお聞き致しました。ケースバイケースですが、M&A後も創業社長が対象会社をしっかりとサポートすることで円滑に事業承継が進むケースもあれば、逆に創業社長の影響力が強すぎ、従業員が誰の指示に従っていいかわからず事業承継に支障を来すケースもあります。
対象会社の社長はA社の社長が兼務されましたが、実質的な経営者は前述のA社役員のネットワークで外部からプロ経営者を招聘されました。ラグビーの強豪校で活躍され、花園(全国高等学校ラグビーフットボール大会)出場及び優勝経験もある方で、身長は小柄ながらがっちりとした体格で、私も初めてお会いした時にはその貫禄と迫力に圧倒されました。大手メーカーにおいて技術営業で数多くの成果を上げ、海外の超大手企業から個人名で指名される程の方で、後に上場企業の役員も務めた方でした。
M&A後、2019年は堅調な業績でしたが、2019年の終わり頃から米中貿易摩擦に伴う中国市場の冷え込みにより大口取引先の売上が急減し、追い打ちをかけるように新型コロナ禍により、2020年は売上がM&A前の半分以下に落ち込みました。
しかしながら、A社のバックアップのもと、新社長がぶれること無く戦う組織への変革を行うとともに、事業の重点対象軸を3次元CAD/CAMに設定し、このための積極的な設備投資と人材の充足を行いました。今期(2021年)は、3Dスキャナや大型加工機械などを中心に総額120百万円の設備投資を予定しています。前社長時代には8年間の設備投資総額80百万円(年平均10百万円)でしたので、前社長時代では考えられない規模の設備投資であるとともに、投資内容の方向性が「お客様が困っていることへのソリューション提供とサポート具現化する」という基本方針に基づくものであり、この考え方を評価された周辺地域の複数の上場企業様との新規での取引関係が構築・増加しています。
一方で、新社長就任後、戦う組織への変革を進める中で、残念ながら変革についていけない社員の方もおり、18名中5名(管理職2名含む)が退職されました。しかしながら、採用活動を積極的に行い7名(うち院卒1名 大卒1名 女性2名含む)が入社。継続傾向にある受注増に対しての設計対応能力が追い付かないことから、依然として採用活動を継続され、貪欲に優秀な人材の採用を目指されています。
対象会社の営業は、以前は創業社長のトップセールスに依存していましたが、営業企画課を新設し、新規採用した女性社員が課長に抜擢されました。また、営業は選択と集中を念頭に、新規・大型案件の受注を目指すと共に、他のグループ会社との共同受注活動も進めています。
対象会社は、米中貿易摩擦や新型コロナ禍などの外部環境の激変により、M&A前であれば事業の継続すら困難だったかもしれませんが、確固たる事業基盤を有する企業の傘下でプロ経営者を招聘し、目先の業績に左右されること無く組織変革と大胆な設備投資を行うことで、M&A前を超える再成長に向けて前進を続けています。
その他の事例もぜひご覧ください。
直近M&A事例①(株式譲渡)~共に成長を目指す熱い想いに共感 を読む→
LBPF吉沼
大学卒業後、独立系M&A仲介会社に入社し、約6年間に亘りオーナー企業の事業承継や上場企業の子会社再編等のアドバイザリー業務に従事。LBPF入社後は、製造業、建設会社、専門商社等のDD及び再生計画策定支援、M&A(海外子会社案件含む)におけるバイサイドのFA業務に従事。また、おかやま活性化ファンドの立ち上げ作業に関与し、ファンド組成後はファンド運営会社へ出向。投資案件の検討及び投資後のバリューアップ等を担当。LBPF復帰後は、引き続き中堅中小企業の再生業務に従事するとともに、九州広域復興支援ファンドの運営にも関与。
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