今回のコラムでは、食品製造業のM&A動向についてご紹介します。
1. 食品製造業の現状と課題
食品製造業界の2019年度における市場規模は、前年度比+0.25%の約29兆8,571億円とされています(※1)
業種 | 製品 | 製造品出荷額(億円) |
畜産食料品 | 部分肉・冷凍肉、肉加工品、処理牛乳・乳飲料、乳製品、その他の畜産食料品製造業 | 68,502 |
水産食料品 | 水産缶詰・瓶詰、海藻加工品、水産練製品、 塩干・塩蔵品、冷凍水産物、冷凍水産食品、 その他の水産食料品 |
33,553 |
野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品 | 野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品、野菜漬物 | 8,219 |
調味料 | 味そ、しょう油・食用アミノ、ソース、食酢、 その他の調味料製造業 |
20,588 |
糖類 | 砂糖製造、砂糖精製、ぶどう糖・水あめ、 異性化糖 |
5,312 |
精穀・製粉 | 精米・精麦、小麦粉、その他の精穀・製粉 | 14,593 |
パン・菓子 | パン、生菓子、ビスケット類・干菓子、米菓、 その他のパン・菓子 |
54,758 |
動植物油脂 | 動植物油脂、食用油脂 | 10,021 |
その他の食料品 | でんぷん、めん類、豆腐・油揚、あん類、 冷凍調理食品、惣菜、すし・弁当・調理パン、 レトルト食品、他に分類されない食料品 |
83,022 |
食品製造業計 | 298,571 |
課題①:人口の減少
日本の人口は減少傾向にあり、将来的な食料支出総額は減少することが想定されます(図A※2、図B※3)
そのため、食品製造業においては海外に販路を拡大する動きも見受けられます。しかしながら、海外現地の法律や商習慣情報の不足、海外展開を任せられる人材の確保が困難であることを課題に感じている企業も多いのが現状です。
課題②:製造コストの高騰
食品業界は仕入価格の変動、人件費・物流費の高騰などに起因する製造コスト上昇により利益を圧迫されるリスクがあります。また、競合他社との価格競争により、製造コストの上昇を販売価格に転嫁し難いという現状もございます。
そのため、仕入から販売に至るまでの適切な業務管理や、機械導入などの省人化による生産性の向上が必要となりますが、それらに必要なリソースを鑑みると、改善への着手が困難な中小企業も一定数存在します。
現状は、他の製造業種と比較しても、食品製造業は労働生産性が低い状況にあります。(図C/※4)
(※1)経済産業省「産業別統計表」より当社作成
(※2)総務省統計局「人口の推移と将来人口」より当社作成
(※3)農林水産政策研究所「人口減少局面における食料推移の将来推計」より当社作成
(※4)経済産業省「産業別統計表」より当社作成
2. 食品製造業の展望
前述の課題でも言及しておりますが、販路拡大の方策は、今後縮小が予測される国内市場で競合他社とパイを奪い合うか、海外事業を拡大するかに大別されます。
一方で、生産力向上によるコストの削減も並行して求められますが、多くの中小企業においては人材や資金のリソースが不足しており、自社単体での成長戦略に限界を感じている企業も少なくありません。
また、大企業においてもより顧客のニーズを満たすための商品開発や自社商品の更なるブランド力向上を企図しており、選択と集中のためにノンコア事業のカーブアウトを検討するケースもあります。
上記に挙げた、業界内の大企業・中小企業の課題解決策の一つとしてM&Aという選択肢があり、同業種・異業種同士を問わず、今後も食品製造業界のM&Aは活発化していく可能性が高いと考えられます。
3. 食品製造業のM&A事例
1件目は同事業を展開している企業によるM&Aの事例です。
東海漬物は浅漬分野の更なる拡大を企図しており、販路や製造ノウハウの共有によるシナジーが見込まれます。食品業界においては、本件のようなエリアの異なる企業同士のM&Aも珍しくありません。
事例① | 企業名 | エリア | 主たる事業領域 |
買手 | 東海漬物 | 愛知 | 漬物製造販売 |
売手 | 荒井食品 | 栃木 | 浅漬茄子製造 |
概要 | 東海漬物は本漬製品、キムチ製品、浅漬製品の主に3つに大した商品展開を行っており、本件において浅漬分野の拡大を企図 | ||
時期 |
2021年 |
2件目は商品力の強化を目的としたM&Aの事例です。
丸大食品は双方の商品力や研究開発力を融合することで、顧客のニーズをより満たせるような商品展開を企図しています。
事例② | 企業名 | エリア | 主たる事業領域 |
買手 | 丸大食品 | 大阪 | 畜産加工品製造販売 |
売手 | トーラク | 兵庫 | 乳加工品製造販売 |
概要 |
トーラクは神戸を代表とするお土産の一つである「神戸プリン」など知名度の高いブランドや商品を有しており、丸大食品は本件において商品力の強化を企図 |
||
時期 | 2020年 |
3件目は異業種同士の企業によるM&Aの事例です。
オーイズミは成長戦略の一環で食品事業の強化を企図しており、商品力のみならず、下仁田物産の取得している食品安全システム認証の国際規格にも関心を示しました。
また、食品業界のM&Aにおいては、M&A実行後も自社のカラーを色濃く存続したいとの理由から異業種の買手を希望される経営者様も多くいらっしゃいます。
事例③ | 企業名 | エリア | 主たる事業領域 |
買手 | オーイズミ | 神奈川 | 遊技機関連機器の製造販売 |
売手 | 下仁田物産 | 神奈川 | 蒟蒻製品の製造販売 |
概要 | オーイズミは主力事業以外に太陽光発電、酒類醸造、不動産賃貸など経営の多角化を進めており、本件においても更なる多角化を企図 | ||
時期 |
2020年 |
4. 最後に
食品製造業界は現状様々な課題に直面しており、各社課題解決に向けた取り組みが求められています。また昨今の新型コロナウイルスの流行を受け、将来の見通しに不確定要素が加わったことから、スピード感を持った経営の舵取りや事業の見直しが必要と考えられています。
こうした状況に対応する前向きな解決策のひとつとして、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?
弊社問い合わせフォームからのご相談もお待ちしております。
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