本コラムでは、化粧品業界のM&A動向について、解説いたします。
1.化粧品業界の現状
日本の化粧品業界は、メイド・イン・ジャパンの強みである高機能・高品質、安心・安全が海外で高く評価されております。
また、世界の化粧品市場規模においても、米国、中国に次ぐ世界第3位の化粧品大国となっております。
化粧品業界は、一つのブランドの市場シェアは 3%に満たないという特徴があります。
多数のブランドが乱立する化粧品産業のトレンドをとらえて、高品質・高機能な製品や特徴的な製品などを市場に出し続ける必要があると言われております。
そのため、他業界と比較して、売上原価は低いものの、販売促進費やマーケティング費の比率が相対的に高い業界でもあります。
また、流通モデルにも特徴があり、メーカーが直接、もしくは系列の販売会社や支社、営業所などを通じて契約した小売店に商品を販売する「制度品メーカー」、卸がメーカーから商品を仕入れ、それを小売店に販売する「一般品メーカー」、訪問販売やダイレクトセールスを行う「無店舗販売メーカー」、美容院やエステティックサロンで使用される業務用化粧品を専門する「業務用品メーカー」という4つの種類があります。
近年では、スマートフォン、SNSの普及によるSNSマーケティングを活用し、D to Cによる販売方法が広まっております。
そのような中で、2020年度の国内化粧品市場規模(メーカー出荷金額ベース)は、前年度比84.4%の2兆2,350億円となっております。
新型コロナウイルス感染拡大の影響でインバウンド需要がほぼ消失したことに加え、テレワークの拡大や外出自粛などで国内需要が落ち込んだことが影響しております。
また、化粧品用途別販売額推移においては、ファンデーション、口紅等の仕上用化粧品は、上述した外出自粛等の影響により減少となっております。
今後は、新型コロナワクチンの普及等により感染者数は沈静化し、化粧品需要も回復すると予測されておりますが、美容部員の対面販売が感染拡大防止の観点から難しくなっているため、デジタルシフトを加速させていく必要があると言われております。
2.化粧品業界の課題
課題① 少子高齢化に伴う人口減少
「少子化による人口減少」は、化粧品業界にとって課題の一つだと言われております。
2015年の国勢調査における人口速報集計では、日本の総人口は1億2,711万人であり、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(出生中位(死亡中位)推計)によると、総人口は2030年には1億1,662万人、2060年には8,674万人(2010年人口の32.3%減)にまで減少すると見込まれており、世界においても急速なペースで少子高齢化が進む中、日本においても今後、人口は減少していくと見られています。
そのため、国内におけるターゲット層が減少し、市場も縮小していくことが見込まれております。
課題② EC化の遅れ
スマートフォンの普及やECツールの効率化によりECの市場規模は拡大しております。
経済産業省が2021年7月に発表した『令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)』によると化粧品・医薬品の業界におけるEC市場規模は7,787億円ですが、EC化率は6.72%であり、他の産業と比較し、低い結果となっております。
令和2年度の全産業(物販)のEC化率の平均は8.08%であり、化粧品・医薬品のEC化率は6.72%であることから、他の産業と比較した場合、EC化が進んでいない業界と言えます。
(出所)令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)
EC化が進んでいない背景として、以下3つが考えられます。
一つ目は、販売チャネルが多数あり、オフラインで買える実店舗が全国にあることが挙げられます。
化粧品業界では、百貨店やドラッグストアなどの店頭販売から、訪問販売、カタログ通販、テレビ通販など、多数の販売チャネルが存在しております。
チャネル別販売実績構成比においては、ドラッグストアの構成比が4割弱を占めております。
ドラッグストアは、全国に1万7083店舗があり、日常的に利用するユーザーも少なくありません。
日用品も豊富に取りそろえているため、化粧品の「ついで買い」が可能であり、実際に店頭で試してから購入したいという需要が高いのも特徴となります。
また、「Amazon.co.jp」、「楽天市場」などはECモールでの認知度及び利便性が高く、公式サイトよりも安く購入できることで自社通販の顧客獲得の阻害要因となっていると考えられます。
それらの理由から利便性の高いドラッグストアやECモール等で購入するユーザーが多いため、EC化率が上がらない要因と言えます。
二つ目は、化粧品ECに対する、不信感が挙げられます。
「初回実質0円」や「2回目の商品が送られてきたユーザーが定期コース(サブスク)になっていると気づき、解約を申し出ると違約金や解約料を請求される」等トラブルの相談が相次いでおります。
消費者庁によると、2020年における「定期購入」に関する消費生活相談件数は、化粧品で約18,500件となっており、年々増加しております。
このようなトラブルを防ぐため、消費者庁では「決済前に定期購入の旨を分かりやすく記載するよう義務化」するなど対応を進めているものの、抜本的な解決には至っていないことが現状となります。
このように被害が毎年拡大し、注意喚起のニュースを見る人が増えることで、化粧品ECに対して不信感を抱く方々もおり、店舗にいる美容部員等と相談しながら安心して購入出来ることへのメリットが大きいことも要因かと思います。
三つ目は、デジタルマーケティングの難易度が高いことが挙げられます。
化粧品業界においては、ブランド力や資本力がある大手企業が多く、競争が激化している状況となっております。
資生堂やコーセーなどの国内大手系、ロレアルなどの外資系、ドクターシーラボなどの通信販売系、さらには富士フィルムのような異業種参入系などが参入している上、デジタルマーケティングの広告費、IT人材へのコストも高騰し、効率良くECサイトでコンバージョンを獲得するのが難しくなっております。
上述した3つの要因から化粧品業界において、EC化が進んでいないことが考えられます。
但し、新型コロナウイルスの感染拡大により通販の利用頻度自体は高まっていることが想定されます。大手企業は、既にデジタルマーケティングへの投資を積極的に行っておりますが、中小企業においては、EC運営費用、広告費、人材への投資等が必要なため、単独でドラスティックにEC化を進めることは容易ではないと考えます。
3.化粧品業界の展望
化粧品業界は、今後の市場動向から国内需要のみに依存したビジネスモデルから脱却し、成長著しいアジアを中心とする海外需要を取り込んだビジネス戦略の策定が必要不可欠となります。
世界の販売戦略の潮流は、「脱店舗依存」と「Direct to Consumer」と言われております。
日本の化粧品業界もデジタル技術の活用を前提としたマーケティング戦略の策定を行い、高機能・高品質、安心・安全という「メイド・イン・ジャパン」ブランドへの信頼をもとに成長が見込まれるアジア市場でのユーザー獲得が必要となるでしょう。
4.化粧品業界のM&A動向
2015年1月以降、化粧品業界でのM&Aは公表ベースで42件(注)となっております。
(注)国内における買収事例のみ。事業譲渡、資本参加等は除く。
(出所)レコフM&Aデータベース
M&A事例の紹介については、上述の課題と関連付けてご紹介させていただきます。
【事例①】リベルタによるファミリー・サービス・エイコーの買収
事例①は今後の市場縮小予測も踏まえ、親和性の高い関連領域進出を企図したM&A事例となります。昨今の急速な事業環境の変化を踏まえ、事業ポートフォリオの拡充を図るためにM&Aを検討している会社も増加しています。
リベルタは、主に美容・雑貨領域を中心に事業を展開しておりますが、「少子高齢化」・「健康志向の高まり」などからヘルスケア領域の進出を企図したM&Aを実施しました。
化粧品、雑貨と親和性の高い領域となるため、リベルタの既存販路を活用することにより事業の拡大が期待出来るかと思います。
【事例②】トレンダーズによるクレマンスラボラトリーの買収
事例②はEC化が遅れている中で、デジタルマーケティングを生業とする企業が化粧品・健康食品メーカーをM&Aを実施ケースとなります。
上述した通り、昨今、スマートフォンやSNSの普及によりD to Cを行う企業が増えており、トレンダーズが有するそれらのノウハウを活用することによりトレンダーズグループの更なる拡大を企図したものとなります。
このように、異業種/周辺業種との間においても、「既存事業の強化」、「効率化・相互補完」といった観点でのM&Aが行われるケースがございます。
5.最後に
昨今の新型コロナウイルスの流行を受け、将来の見通しに不確定要素が加わったことから、スピード感を持った経営の舵取りや事業の見直しが必要と考えられています。
こうした状況に対応する前向きな解決策のひとつとして、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?
大学卒業後、大手製薬会社に入社。
約4年間、MRとして開業医、病院、調剤薬局等にて医療用医薬品の情報提供活動に従事し、2019年にM&Aアドバイザリー会社に入社。
主にセルサイドのソーシング、エグゼキューション業務に従事し、2021年1月にLBPF入社。
LBPF入社後は、主に電子部品関連(半導体、産業用機械含む)及び生活関連用品業界の案件開拓及び実行に携わっている。
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